「新型出生前診断(NIPT)」は、母体にリスクがほとんどなく、高い精度で染色体のリスクを診断できるスクリーニング検査です。ただし、NIPTで把握できるのはダウン症の疑いのみで、ダウン症の赤ちゃんがどのような症状を持って生まれてくるのかは把握できません。
この記事では、ダウン症の主な症状や原因、NIPT検査における21トリソミーについて詳しく解説していきます。さらに、出生前診断を受ける流れについても紹介していきますので、NIPTを検討している人はぜひお読みください。
NIPTで発見できるダウン症とは
ダウン症は、染色体数の異常によって起こる先天的な病気で、正式には「ダウン症候群」と呼ばれます。ダウン症は、600〜800人に1人の確率で発症するといわれており、決して珍しい病気ではありません。
ダウン症の特徴は、身体的なものと精神的なものに分けられます。まずはダウン症の特徴や症状について詳しくみていきましょう。
1-1.ダウン症の特徴①身体的特徴
まず、身体的な症状として、発症した子どもの多くに「筋緊張の低下」と「先天性の心疾患」がみられます。ダウン症の子どもには、心臓・消化管などに先天性の異常が現れたり、筋緊張が低いことから口がうまく閉じられないなどの症状がみられるのです。
さらに、共通して以下の外見的特徴も現れます。
- 頭が小さい
- 鼻が低く平坦な顔
- つり目で小さい耳
- 背が低く肥満傾向
また、ダウン症の胎児には、お腹の中にいる段階で「首の後ろが厚くなる」「鼻骨の形成が遅くなる」などの症状が共通してみられる特徴があります。
1-2.ダウン症の特徴①精神的特徴
ダウン症の精神的な影響には個人差があります。主な症状としては「発達障害」が挙げられますが、車の運転や仕事など、日常生活を問題なく送れる人もいれば、発話できない人もいるのです。
一般的に、ダウン症の子どものIQは、通常の子どもの2分の1程度だといわれています。しかし、幼少期の外的刺激の少なさや、本人の興味関心の低さから、筋肉または言語への発達に影響があるケースもあるようです。
主な精神的特徴については以下をご覧ください。
- 注意欠陥多動性障害
- 自閉症
- 知的障害
- 学習障害
また、ダウン症には性格的な特徴はなく、社会的な適応能力や個々の学習能力には個人差があります。家族や周囲の理解度によっては、発達障害も個性として受け入れられるケースも少なくありません。
1-3.ダウン症が発症しやすい合併症
ダウン症は以下の先天的な合併症を引き起こしやすいというリスクがあります。
- 完全型房室中隔欠損症(先天性疾患のうちの45%)
- 不完全型房室中隔欠損症
- 動脈管開存
- 心室中隔欠損
心臓や血管の構造に、生まれつき疾患が見られることを「先天的心疾患」といいます。先天的心疾患は、すべての胎児に起こりうるもので、約1%の確率で発症するものですが、ダウン症と合併して発症するケースが多い傾向です。
また、以下のような合併症も存在します。
- 消化管異常(腸閉鎖・肛門奇形など)
- 糖尿病
- 白内障
- 難聴
合併症は、NIPTを含む出生前診断では判定できないものです。合併症のリスクを調べるには「超音波検査」などの別の診断を受ける必要があります。
2.NIPTにおける「21トリソミー」とは
ここからは、新型出生前診断でわかる「21トリソミー」とダウン症の関係について解説していきます。高齢出産だとダウン症の確率が高くなるといわれますが、その理由にはどのようなものがあるのでしょうか。詳しくみていきましょう。
2-1.ダウン症とトリソミーの違い
ヒトの体には46本の染色体が存在します。染色体は通常2本が一対のペアになっていますが、通常より1本多い「染色体が3本になってしまった状態」が「トリソミー」と呼ばれる染色体異常です。
「21トリソミー」とは、その名のとおり21番目の染色体に異常がみられる状態のことで、ダウン症はこの21トリソミーによって起こるものが95%を占めています。
2-2.母体とダウン症の関係
トリソミーは、母体の年齢が高くなるほど頻度が上がるといわれており、なかでも21トリソミーにある余分な染色体は母親から受け継がれるといわれています。そのため、高齢妊娠や高齢出産は、胎児の染色体異常のリスクが高まる傾向です。
厚生労働省によると、母体が20台前半の場合は約1,000人に1人、40代以上になると約100人に1人の確率でダウン症の赤ちゃんが生まれるという統計が出ています。
しかし、若い妊婦から生まれることもあれば、父親から受け継がれた染色体によりトリソミーが発症するケースもあるのです。万が一、お腹の中の赤ちゃんがダウン症だとわかっても、自分を責める必要はありません。
3.NIPTでダウン症を診断する流れと治療方法
お腹の中の赤ちゃんがダウン症かどうか知りたい場合は、新型出生前診断(NIPT)を受けてその可能性を判断します。出生前診断でダウン症を診断する流れは以下の通りです。
- NIPTなどの「非確定検査」や胎児超音波検査を受ける
- 羊水検査や絨毛検査などの「確定検査」を受けて、診断内容を確定する
- 出生後に症状に合わせた対処療法を実施する
NIPTなどの「非確定検査」では、お腹の中の胎児に「ダウン症のリスクがあるかどうか」しか判定できません。そのため、非確定検査の結果が陽性だった場合は「確定検査」を受けて、診断を確定する必要があります。
3-1.NIPT(非確定検査)
NIPTでは、主に以下の3種類の染色体異常のリスクが把握できます。
- 21トリソミー(ダウン症候群)
- 18トリソミー(エドワーズ症候群)
- 13トリソミー(パトゥ症候群)
妊娠10週目から妊娠後期まで受けられる特徴がありますが、妊娠中期よりも初期のほうが検出率が高い傾向です。
費用は10〜20万円程度と高額ですが、クリニックによっては検査のみをおこない、十分なカウンセリングが受けられない施設も存在します。NIPTを受ける前には、必ず検査を検討しているクリニックの情報をしっかり調べることが大切です。
3-2.胎児超音波検査(エコー検査)
ダウン症の可能性は、妊娠検診でおこなわれる「胎児超音波検査(エコー検査)」でも診断可能です。妊娠11週目から13週目でおこなわれる「胎児ドック」のエコー検査では、以下の項目からダウン症のリスクを調べます。
- 後頭部の厚み
- 鼻骨の形成度合い
- 静脈管の逆流の有無
- 三尖弁の逆流の有無
ただし、健康な赤ちゃんにも上記の項目が見られることがあるため、必ずしもダウン症であると確定できるわけではありません。
3-3.陽性になった場合に受ける確定検査
NIPTで21トリソミー(ダウン症)の項目が陽性になった場合は、可能性を確定するために「確定検査」が必要です。確定検査の種類や費用については、以下を参考にしてください。
羊水検査 | 繊毛検査 | |
---|---|---|
費用 | 10〜20万円(+入院費) | 10〜20万円(+入院費) |
受けられる時期 | 15週目〜16週目 | 10週目〜14週目 |
特徴 | 腹部に針を穿刺して羊水を採取(流産のリスクは0.2〜0.3%) | 胎盤に直接針を穿刺して内側にある繊毛細胞を採取(流産のリスクは1%) |
3-3.ダウン症の治療方法と検査を受ける前の心得
現在の医療技術では、ダウン症に対する直接的な治療方法はありません。ダウン症やエドワーズ症候群などの染色体異常は根本的な治療が難しく、現状は一人ひとりの症状や合併症にあわせた対症療法が採用されています。
また、ダウン症児には継続的な治療や、症状の重さに合わせたサポートも必要です。日本では障害を持つ子どもに対してさまざまな福祉サービスが受けられるので、「特別児童扶養手当」や「養育手帳」の利用も検討しましょう。
万が一確定検査でダウン症と診断された時のために、以下の項目をチェックしながら、安心できるクリニックを見つけてみてください。
- 染色体異常やダウン症について豊富な知識があるか
- 認定遺伝カウンセラーが在籍しているか
- 確定検査への移行はスムーズか
- 診断後のサポートは充実しているか
まとめ
NIPT検査の陽性診断は100%ではありませんが、採血だけで簡単にできる検査だからといって気軽に受けてしまうと、陽性と判定された時に気落ちしてしまうかもしれません。診断を受ける前に「陽性が出た時にどうするか」をしっかり考えておくことが大切です。
検査結果に振り回されないためにも、カウンセリング体制が充実したクリニックを選択することをおすすめします。
この記事の監修者
森久仁子
大阪医科大学を卒業後、同大学産婦人科学講座に入局、平成24年和歌山市に森女性クリニックを開院。産婦人科としての枠組みだけではなく、女性医療の充実を目指すべく診療を行っている。
【保有資格】日本産科婦人科学会専門医・医学博士・母体保護法指定医・マンモグラフィ読影認定医
【所属学会】日本産科婦人科学会、日本抗加齢医学会
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